以下、『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)』の内容に管理人の意見を付加したものです。ライフ・シフトには記載されていないこともそかなり盛り込まれています。
長寿という贈り物
1914年生まれの人が、100歳まで生きる確率はわずか1%しかなかった。
しかし、2018年に11歳だった子供は50%の確率で104歳まで生きる可能性ある。1987年生まれの人間でもその半分は100歳程度まで生きるだろう。
2107年には、100歳生きることは長寿ではなく、普通の人生となる世界になっているだろう。
100年生きることを前提に人生設計をしなくてはいけない。
教育・仕事・引退モデルの崩壊
これまでの既存モデルでは3つのステージを生きる人生だった。
①教育のステージ(1~22歳):人生の始まりの時期は教育を受け、社会に出て仕事ができる人間になるためのステージ
②仕事のステージ(22~60歳):十分な教育を受けた人間は、仕事に就き、社会で様々な生産活動に従事する
③引退のステージ(60~75歳):仕事のステージを引退して、年金及び貯蓄で余生を送るステージ
75歳まで生きる場合は、3ステージモデルで全く問題なかった。
しかし、105歳まで生きる場合は65歳で引退して、残り40年を余生として生きるには長過ぎる。
生産的な活動をしない、社会とあまり繋がらない、お金を稼がない期間を40年近くも生きていくには沢山の困難がある。
これまで、健康、栄養、医療、衛生といった多分野におけるイノベーションによって、平均寿命は大きく伸びてきた。
2021年の日本人の平均寿命は男性が81.47歳、女性が87.57歳と驚くほどかなり長生きになっている。
しかし大事なのは、健康に生きる期間「健康寿命」が長くなることで、「平均寿命」と「健康寿命」の差は男性で9年、女性では12年の差がある。
認知症の解明と対処にも、今後さらに進歩が期待されている。
既にエーザイのレカネマブなどが開発されており、将来的にはある程度の希望を持つことができる。
これから、私たちはこれまで想像していた以上に長く生きる可能性が高いと考えられる。これは長寿という贈り物なのか?
もし40年間の引退のステージの多くを、健康寿命を超えて生きていかなくてはならないとすると、長寿は自身にとっても周りにとっても苦難の連続となってしまう可能性すらある。
見えない「資産」
人生100年では、有形資産(金銭、不動産等)よりも無形資産が大事になる。
①生産性資産…スキル、知識
②活力資産 …肉体的、精神的な健康と幸福
③変身資産 …自分をよく知り、多様性に富んだ人的ネットワークや新しいことに開かれた考え方を持つ ということ
生産性資産
生産性資産とは、生産性の向上、所得増加、キャリアUP等に役立つ資産のことを指す。例えば、仕事で養ったスキルや知識である。
しかし、人生100年になると、キャリアの初期に身につけた専門技能だけで何年通用するだろうか?
幸いなことに、技術系、IT系、生産技術系等のキャリアを歩んでいる場合、望ましい職場で、進歩的な職に就いている限りにおいては、仕事をし続けことによって、否応なく新しい技術を身につけることになる。
また場合によって、技術力をベースに新しい、更にチャレンジできる職場に転職していくことも容易だ。
一方、非技術的なキャリアトラックを歩んでいる人の場合、中でも一つの企業に安住して、企業内のキャリアを築いてきたケースでは、気がついたら企業内特定のカルチャーと仕組みの中でしか役に立たない特殊なノウハウ、専門性しか蓄積していないこともある。
これからは、誰しも新しいスキルと専門技能をブラッシュアップし続ける必要がある。
身につけるべき知識・スキルは、経済的な価値を生み出すことができて、希少価値があるために模倣が難しいものだ。
中でも「創造性」、「意思決定やチームのモチベーション向上」、「思考の柔軟性や敏捷性」等が大切になってくるだろう。
これらはいかなる時代においても、AIが発達しても、人間が仕事をやる上で必ず必要となってくるスキルであろう。
また、職業上のネットワークや良い評判をキープすることも重要だ。
高い信頼性のある職業上のネットワークは、仕事で壁にぶつかった時も、新たな飛躍を遂げることを目指している時も、大きな人的資産として役立ってくれる。
更に、必要な人材を紹介してくれたり、仕事の面で自分の世界を広げ、正しい状態に保つためには必要不可欠となる。
良い評判を得ることも守備範囲やネットワークを広げるために役に立ってくれる。
しかし、良い評判や高い信頼を得て、それを保ち続けることは時間と多大な労力が必要になる。
近年はインターネット、ソーシャルメディアの発達により、自身の評判を完璧にコントロールし続けることはほぼ不可能になっており、良い評判を保ち続けるためには細心の注意が必要だ。
活力資産
活力資産とは、人に幸福感をもたらし、やる気をかき立てる資産を指す。
具体的には、肉体的・精神的健康や、友人や家族との良好な関係などである。
健康な状態を保つことは、長寿社会において最も大事なことの1つとなる。
60歳を過ぎたあたりから、誰しも身体のどこかに不調を感じることが多くなる。
毎日運動する、栄養バランスを考えて食事に気をつける、不調を感じたら迷わず医療機関を受診する、過度な無理はしない、等の日々の努力も必要となる。
また、身体の健康だけではなく、精神および頭脳の健康を維持することが大切となる。
最近の研究では、脳は筋肉と同様に何歳になっても鍛えることができるそうだ。
ワシントン大学の「シアトル縦断研究」において、認知力を測る6種のテストを行ったところ、その4種類で高齢者の成績は20代よりも高い結果が出た。
記憶力と認知のスピードにおいては60歳以降で低下が見られたが、逆に、言語力、空間推論力、単純計算力と抽象的推論力は20代よりむしろ40〜50代において向上していた。
脳の健康維持や認知症の予防のために重要なこととして、特にエビデンスが高いものは、①運動、②趣味・好奇心、③コミュニケーション(社会との関わり)と言われている。
その次に大事なのは、④食事、⑤睡眠、⑥幸福感が挙げられる。
また、長年の間の親しい友人との関係を持ち続けている人は、高齢になっても活動的でポジティブな生活を送る傾向があるようだ。
変身資産
変身資産とは、人生の途中で変化と新しいステージへの移行を成功させる意思と能力のことである。
移行につきものの不確実性への対処力を促す要素でもある。
具体的には、次の3つの要素が必要となる。
①自分について良く知っていること:過去、現在、将来の自分について反省し、展望することで、自分らしさを持ち、アイデンティティを大事にしていくこと。
②多様性に富んだ人的ネットワークを持っていること:同一のネットワークの中では同質性が高いため、変化を促すためには多様性のある複数のネットワークを構築する必要がある。
③新しい経験に対して開かれた姿勢を持っていること:同一企業の中でのキャリアや経験のみしかもっていないと、経験に基づいた、型にはまった行動をとりがちになる。
新しいやり方を受け入れて、やってみるという行動に対する許容力は大きくない。
新しいステージへの移行を成功させるためには、現状を打破することを『よし』とするカルチャーが必要だ。
人生はマルチ・ステージ
人生100年時代はマルチステージ。
①エクスプローラー(探検者)
②インディペンデント・プロデューサー(独立生産者)
③ポートフォリオ・ウオーカー
人生のどの時期でも、好きなステージを選べる。
「エクスプローラー(探検者)」
1つところに留まることなく、軽やかに探検し、旅を続け、様々な針路を検討してみる。
この時期には、様々な人たちの苦しみや喜びを我が事のように考えてみることが大切になる。
話を聞く、本を読むなどを通して、他の人生に触れることで、疑似体験を深めていく。
これらの体験により、自分自身の価値観に変化が生まれ、自分自身のアイデンティティについてじっくり考えてみることが出来る。
「インディペンデント・プロデューサー(独立生産者)」
企業などの組織に属することなく、自由と柔軟性を大切に、自分自身でビジネス始める。
自分で始めた事業を通して、様々な試行錯誤を繰り返しながら将来に向かって、スキルを高めていく。
ビジネスは小さく始め、プロトタイプを作っては壊すというステップを繰り返しながら、習熟度を深めてスキルを上げていく。
そのため、途中で多少の失敗をしても大きなダメージを受けることがない。
同一のテーマをもち、創造性の集積地に集まり、みんなで協業しながら事業を試していくことは若い世代の選択肢の1つとなる。
「ポートフォリオ・ワーカー」
このステージでは、異なる種類の仕事や活動に同時にかかわっていく。
成功するためには、フルタイムの職についている間に、副業等のかたちで小規模なトライアルとして始めてみることだ。
どのような年齢であっても実践できるが、できればある程度のスキルや人的ネットワークを持っていると心強い。
実験段階で、汎用的スキルや社外の多様なネットワークといった変身資産を育てておくといいだろう。
自分のリ・クリエーション
人生の各ステージで必要になるスキルが変わるため、常に成長し続けなくはいけない。
3つの「見えない資産」(生産性資産・活力資産・変身資産)に投資し、自らを再創造(リ・クリエーション)する。
人生100年時代には、否応なしに、自分自身が社会に適合するために変身していかなくてはならない。
マルチステージを生きる私たち
マルチステージの人生を生きるためには、以下が必要になる。
①自分自身をきちんと認識すること
②努力し続けること(無形資産を増やす)
③自分の人生に合ったパートナーを選択すること
④パートナーとの間で古い役割分担に捉われない、相互理解、協力関係を築くこと
これらの人生を選び取り、新しいマルチ・ステージな社会に適応するために、柔軟考え方を持つことが必要ではないか。
但し、これらの人生を選び取れるのはある程度の教育レベルがあり、新しい社会に適応できる柔軟考え方を持っている人間だけではないか。
このままでは、古い3ステージモデルからなかなか脱却できない人間が大勢でてきてしまう。
そのためにも教育システムを既存の概念に囚われない形に変えていかなくてはならない。