・一人暮らしをしていた母が80歳を過ぎたあたりから、だんだん認知症の症状がでてきました。
・最初は少し物忘れがひどくなって、同じことばかり言うようになったなあという程度でしたが、5年程かけて、症状は少しずつ悪くなりました。
・地域包括センターに行き、介護保険の認定申請をしました。要介護1と認定されました。
よい老人ホームの見分け方
・地域包括センターで、匠シニアサポート相談センターという、有料老人ホームの紹介所を教えてくれました。
・その時にサポート相談センターでうかがった内容です。
・入居一時金が6,000万円、1億円といった非常に高額なホームがありますが、それは基本的にハードウエア(ホームの建物その他の設備)に対して投資されている費用です。
・入居一時金のボーダーラインは1,000万円前後で、それより高額になると、ホームの建物その他の設備に関する費用で、介護サービスの質が大きく向上することはありません。
・大手で有料老人ホームを数10件運営している会社もあります。ホームの数が多いところは、新しいホームを次々とオープンするので、介護職員等のベテランスタッフが短い期間で異動していきます。代わりに、新人スタッフさんが頻繁に入ってきます。
・入居されている方は、日々お世話をしてくれるスタッフさんと仲良くなるので、仲良しのスタッフさんが居なくなってしまうことは精神的に良い影響を与えません。
・大手はホーム運営のシステムが整っており、ノウハウを蓄積している、という点では信頼できるところがあります。一方、スタッフさんが目まぐるしく変わる、というのは人的な面では入居者にとってはマイナス面もあります。
・次々と新しいホームをオープンところではなく、運営数があまり多くない老人ホームの方が望ましい。
・老人ホームにはクーリングオフのような短期解約特例制度があり、契約から90日以内であれば解約・退去できます。
ホームを見学しました
・相談サポートセンターにうかがう前に、大手の評判のよいホーム(ベネッセと木下の介護)を2件(ホームAとB)、見学しました。また、相談サポートセンターの紹介で更に2つホームを見学しました(ホームCとD)。
・その結果を表にまとめると以下の通りです(注:2017年頃に見学した当時のデータです)。
A | B | C | D | |
最寄駅 | 東武東上線 上板橋 | JR 南浦和 | メトロ 地下鉄赤塚 | 西武池袋線 中村橋 |
所要時間 | 64分 | 65分 | 48分 | 56分 |
乗換 | 2 | 2 | 1 | 2 |
介護人員 | 2:1 | 2.5:1 | 2.5:1 | 3:1 |
定員 | 68 | 54 | 71 | 70 |
介護職員数 | 36 | 30 | 48 | 27 |
看護師 | 3 | 2 | 4 | 9 |
部屋の広さ | 18.0 | 18.0 | 18.1 | 18.0 |
費用 利用料 | 245,600 | 243,380 | 186,400 | 208,000 |
介護(1割) | 17,430 | 19,191 | 19,944 | 20,368 |
その他 | 20,000 | 20,000 | 20,000 | 20,000 |
費用合計:円 | 283,030 | 282,571 | 226,344 | 248,368 |
入居一時金:円 | 3,000,000 | 0 | 12,960,000 | 9,000,000 |
サービス体制及び費用のしくみ
・形式的に比較してみると、費用以外は大きな相違はありません。
・介護人員の2:1介護とは、入居者さん2人に対して1人の介護職員が配置されているという意味になります。
・2人に対して常に1人のスタッフさんがいる、という訳ではなく、フルタイム換算の職員数が34人で、入居者が68人なら、2:1介護になります。
・スタッフは交代勤務なので、コンスタントに配置されているスタッフさんは当然、この名目値よりも(かなり)少なくなります。
・また、看護師さんは基本的には交代勤務なので、記載人数に関わらずこの規模のホームでは常時1人が一般的です。
・介護スタッフさんはフルタイムが良いとは限りません。積極的にパートタイムスタッフを活用して、フルタイムのスタッフさんに休む時間を取ってもらう、という方針のホームもあります。
・夜間を中心にパートタイムで働きたい方を多く採用したり、時間は短くても経験のあるパートタイマーを雇用して、スタッフさん全体の疲弊を防いでいるホームもあります。
・24時間看護師常駐とうたっているホーム(非常に高額なホームに限ります)以外は、看護師さんが居る時間は昼間(9:00~18:00頃)だけです。
・ほとんどのホームでは、夜間のスタッフさんは1フロアに1人の配置になります。
・入浴は週に約2回で、追加料金によって回数を増やすことも可能ですが、人手が足りずに増やせないホームもあります。
・入浴はスケジュールで順番に1人ずつ行われ、夜に入浴する訳ではありません。どのホームも18時を過ぎると、夜間担当のスタッフさんが各フロア1人等になるので、朝から夕方までの間に入浴介助を受けながら、車いすの方、寝たきりの方などは機械入浴、という形になります。
・部屋の広さはどこもほぼ同じで、ベッド、トイレ、クローゼット等の配置も決まったものになっています。
・食事は食堂で食べるようになっていて、専門の食堂業者が運営するホームが多いです。見学したホームは全てレオックという会社が運営していました。
・クリスマス、お正月などには特別メニューがあり、特にお正月はお品書き付きの豪華な献立になったりします。夏は流しそうめんをやるところが多いようです。
・レクレーションは無料のものと、有料のものがあるところが多く、一般的に毎日の体操、午後のお茶の時間があってお菓子とお茶が出たりします。週に1、2回は外部の専門家を招いた体操をやるホームもあります。
・フロアに読書コーナーがあり、本がおいてあったりもします。
・外部から講師を招いて、フラワーアレンジメント、お習字、水墨画、絵手紙、陶芸、等のいろいろなレクレーションがあります。こちらはおおむね有料となります。
・レクレーション以外にクラブ活動を行っているホームもあります。
・また入居者の希望により、ホームのスタッフさんの引率で美術展に行ったり、お寿司屋さんで会食するというイベントもあります(コロナ渦での実施状況は不明です)。
・費用は、例えば、ホームAの場合、利用料+介護保険の利用額(1割負担)+その他=283,030円が自己負担額になります。実際に支払う金額は、ホーム利用料よりも数万円は多くかかることになります。
・ホームAの例では、ホーム側には、1人当たり283,030円+17,430÷0.1-17,430=439,900円の収入が入ります。
・ホームに入ると、その人の介護保険利用料を100%ホームが受け取ることが出来る仕組みになっています。
・入居一時金はおおむね5年で償却されるシステムです。ただし、ホームによって一部を即時償却したりする場合もあります。
・入居一時金を払うと、毎月の利用料がその分減額される仕組みになっていますが、その期間が5年と決まっている場合と、入居期間全体に渡って減額されるホームがあります。
・その他の費用に2万円とありますが、こちらは有料で開催されるレクリエーションの参加費・教材費、外出レクリエーション、買い物代行費用、必要な場合はオムツ代、理髪師さん等が出張してくれて髪を切る、等の費用になります。そのため金額はケースバイケースになります。
・提携先の医療機関が定期的に訪問し、薬を処方する場合には、医薬品代がかかります。提携先の歯医者さんも定期的に訪問して、歯のチェックやクリーニングをしてくれる場合もあり、こちらも診療費用がかかります。
入居一時金がほとんどないホームを見学
・ホームAとBは綺麗で、きちんとシステムに添って滞りなく運用されているようでした。
・少し気になったのは、スタッフさんたちが少し疲れていて、元気がないように思えたことです。忙しくって大変そうで、あまり余裕がないようにみえました。
・介護職員さんのマンパワーが不足しているように思えました。
・見学の際に、入居された方たちはおおむね5年位で亡くなったり、病院に入院されたりして退去される、と聞きました。
・要介護状態の80代の高齢者が入居されることが多いので、平均5年での退去も不思議ではありませんが、やはりショックでした。
・ホームBの方がAと比較して、アットホームな感じでしたが、逆にシステム化されておらず、運営が少し大変そうに見えました。
・自分が入りたいか、と考えると、出来れば入りたくないというのが正直な感想です。
入居一時金が1,000万円程度のホームを見学
・次に相談サポートセンターの方に同行していただいて、ホームCとDを見学しました。
・どちらも1,000万円前後の入居一時金を支払うホームで、その分ホームAやBと比較して、建物が立派で全体が綺麗な印象でした。
・このクラス以上のホームになると、外観は普通の綺麗なマンションのように見え、住宅街に溶け込んでいます。外から見ると介護付き有料老人ホームとは分かりません。
・介護やケアに関しても、ホーム長さんが看護師さんだったり、リハビリに力を入れていたり、それ以外にも個別に柔軟な対応をしてくれます。
・パラマウントベッドの「眠りSCAN」等の健康管理のための設備も導入されており、安心感が高まります。
・ホームCでは、パートタイマーの介護スタッフさんを積極的に採用しており、その分フルタイムで働くスタッフさんがきちんと休みをとれるようにしているとのことでした。
・見学時にすれ違ったりするスタッフさんたちも、みなさん元気で明るく感じのよい人ばかりで、無理なく働いているように見えました。
・ホームDは、アットホームな雰囲気で、食堂が広く、時々カラオケ大会も催されるとのことでした。
・結局、①家から一番近い、②新しいホームで気持ちがいい、③スタッフさんがみんな明るくてやさしい、④一時金を支払えば毎月の費用が比較的安い、⑤ケアマネジャーさんいい人等、の理由でCのホームに決めました。
・自分が歳をとったら入ってもいいと思うような良いホームだと感じていました。
ホーム入所後訪問時に感じたこと
・母の入所後は、週に1回か2週間に1回、定期的にホームを訪問しました。
・介護スタッフさんたちはみんな明るく、親切で、会うとニコニコ挨拶してくれます。
・お部屋の入口には各人毎にいろいろなお花が飾ってあります。
・お部屋は日当たりがよく、新しくて綺麗です。
・食堂は広くて、大きなテレビがあり、こちらも日当たりがよくって明るい感じです。
・朝昼晩のお食事、3時頃のお茶とおやつは食堂でいただきます。
・毎日何かアクティビティがあり、一部は無料、一部は有料のイベントです。
・毎週土曜日は、提携しているコナミスポーツから赤いウエアを着た、元気なおじさんインストラクターさんがボールを持ってやってきて、みんなでボールを使ったエクセサイズをやっていました。
・日比谷花壇と提携したフラワーアレンジメントのイベントも毎月1回、参加することができ、作ったアレンジメントはお部屋に飾ることができます。
・陶芸、絵手紙等のイベントもあって、入所者の方たちの作品はロビーに展示されていました。
・ここまで読まれていかがですか?なかなか楽しそうな感じがしませんか?
・こんなホームなら入ってもいいかも、と思われた方もいるかもしれません。
・でも、これは介護付き有料老人ホームです。サ高住等と違って、基本的には各人で自由に外出することはできません。
・見た目は綺麗なマンションですが、エントランスは施錠されており、入居者さんは自分では勝手に外にでていくことはできない仕組みになっています。
・ほとんどの入居者さんが大なり小なり認知症を患っている、と聞きました。
・美術展を見に行ったり、春にお花見に行ったり、図書館に行ったり、みんなで外食したり、外に出る機会はありますが、自分の好きな時に、好きなところに行ける訳ではありません。
・イメージとしては、ちょっと厳しめの高校の寮に入っている感じかもしれません。
・家族が来てくれて、許可をとれば一緒に外出するのは自由です。
・家族の中に、十分に時間がとれる人がいて、車の運転が出来て、頻繁に会いに来てくれるのであれば、外出するのは比較的簡単です。
・でも有料老人ホームの入居者さんには、そのような方は多くありません。
・遠方のご家族もいて、週に1回以上、2週に1回でも、家族がたびたび会いに来てくれる人は少ない、という印象でした。
自分はどうするか考えてみた
・入居一時金が数千万円、月額利用料だけで40万円以上、場合によっては100万円以上の高級老人ホームは建物も綺麗ですし、ロビーはホテルのようです。
・いろいろなアクティビティもあり、社交ダンス、音楽活動、料理、ゴルフ、絵画等のクラブ活動も行っているそうです。
・非常に高級なところは看護師さんが24時間常駐しています。
・パンフレットを見て、ホーム側の説明を聞いて、見学すると、とても素敵なところだと思うかもしれません。
・でも認知症を患っていたり、足が不自由だったりすると、元気な時のように楽しいアクティビティや社交活動を享受することはできないでしょう。
・また、自分自身は身体が元気で認知症はなくても、周りの方のほとんどが認知症だったらどうでしょう?そのような環境で楽しく過ごせますか?
・私も50歳位の時は、歳をとったら老人ホームに入ってのんびり過ごすのもありかな、とのんきに考えていました。
・しかし、実際に母がホーム(介護付き老人ホーム)に入所してみると、決して楽しいところではない、と思いました。
・友達や家族に好きな時に会うこともできませんし、自由に好きなところに行くこともできません。
・ホームは少ないところでは40室程度なので、その中に友達になれそうな人がいるかどうか分かりません。40室といっても、その中の何割かは要介護5などの寝たきりの方もいます。
・老人ホームで自由に、自分らしく、楽しく過ごすのはとても難しい、と少なくとも私は思います。
・出来れば老人ホームに入らないですめばそれに越したことない、ということです。
・でも、やはり入らなくてはいけない日が来るかもしれません。
・そのためには、ここなら入ってもいいというホームを自分で事前に選んでおくことです。
・またその前に、なるべく認知症にならないように、なるべく歩けなくならないように、自分で出来ることをやっておくことではないでしょうか。
1)認知症にならないように、歩けなくならないように頑張ろう。
2)いざという時のために、自分で納得できるホームを選んでおこう。
3)スタッフさんが元気に働いているホームを選ぼう。